圧接の基礎を語る
はじめに
皆さんと考え方を共有したいので圧接の基本と言うことで簡単にお話しします。
皆さん、ご存じのように『圧接は固相接合』ですが、これを言葉で「説明しなさい」となると、なかなか難しいのではないでしょうか?
調べてみると、鉄の原子と原子の間の価電子がお互いに共有できる原子間距離に接近し、金属結合を完成する接合とあります。
これには、鉄の原子と原子との間に介在物(酸化膜等)が入らないことが条件になるわけです。
しかし、鉄は酸素と結合しやすい元素なので地球上では、常に空気の中に酸素があるわけですから、鉄筋端面は大気中では通常酸化されている状態で、少なからず酸化膜で覆われ、従って、常温の中では高圧力を掛けても原子間距離が接近しません。
ところが、鉄は熱を加えることで、柔らかくなる性質が有るのと、尚かつ、酸素との化学反応がし易くなり、酸化と還元が交互に激しく繰り返し起きます。
鉄筋端面が還元炎でシールドされて温度が上がっているときは還元され、火炎が少しでも外れれば熱くなっている鉄筋端面は、酸化されることになります。
つまり、初期加熱で密着前に強還元炎によるシールドが最重要で、火炎が外れたまま密着させれば酸化膜を挟み込むことになります。圧接部破断の原因は、『フラット破面』なので、バーナーの種類を問わず、圧接は強還元炎で酸化膜を還元除去しての密着が絶対条件です。
密着時に挟み込まれた酸化膜は突き合わせ部が閉じられてしまえば、取り除くことが出来ません。いくら形の良い圧接部でも、いわゆる『フラット破面』と呼ばれる不良圧接部になります。
圧接部の善し悪しは「密着時でほぼ決まる」と言っても間違いはありません。圧接部の加熱に時間をかけると「酸化膜が拡散して消える」と言う人もおりますが、そのようなことは有りません。温度過剰で焼き割れの原因になるだけです。あくまでも『圧接は固相接合』で有ることを意識してほしいのです。
圧接の基本
テーマは、『圧接は還元密着が命』です。 最近、GP検定での合格率が下がっているとの話が有ります。合格率アップの為、もう一度原点に立ち返り、圧接の基本を確認したいと思います。
まず、圧接部破断について考えたいと思います。
破断には、圧接面破断とHAZ破断があります。圧接面破断とは突き合わせ面に酸化膜等が閉じこめられたことによる破断のことです。HAZ破断とは熱影響部にある不具合やノッチ効果が原因で起こる破断といわれています。
GP検定の2種以上はSD390の材料が指定されております。高強度の鉄筋は、しなりが少なく硬いので少しでも不具合があれば弱いところに応力が集中し、破断になります。
高強度の鉄筋を圧接する場合、完全な還元密着は勿論ですが、加熱範囲を圧接面から遠くまで拡げ、圧接部の裾野を広くなだらかに長くすれば、母材より太い部分が長くなり、応力の掛かる範囲をより外側に分散することが出来ます。これにより、圧接面破断やHAZ破断は起こりにくくなります。
皆さんは、よくご存じですが、もう一度、確認して欲しいと思います。
圧接というのは、2本の鉄筋を加熱、加圧し、還元密着させて、1本の鉄筋に仕上げる継手工法です。(固相接合といいます)
正しい手順で行われた圧接部は母材の強度を満足します。つまり、圧接部での破断は起きません。
すべての種類のバーナーは挿入位置が正しければ最大の還元能力(つまり、シールド効果)が発揮されるよう焦点の設計がなされています。
バーナーの間隔をを広げれば、逆に焦点が狭まり、還元能力が著しく損なわれ酸化膜が入り易くなります。
逆に間隔を狭めれば、折角の火力を鉄筋に伝えられなくなり、加熱効率が悪くなります。
当社で製作したバーナーの性能を確かめる為、温度と加圧の実験を、十数年に渡り数限りなくおこなっています。
このグラフは放射温度計で測定した、圧接中の鉄筋表面温度の変化です。縦軸が温度で横軸が時間です。
ご覧のように密着時には、圧接で必要な温度(1100℃~1200℃)に達しています。
鉄筋表面温度と内部温度の関係ですが、火炎投入時はその差が大きいのですが、密着時にはおよそ100℃以内まで差が縮まります。揺動開始から更に差が縮まり、成型中も加熱し続ける訳で、内部の温度もほぼ表面温度に近くなります。IDATENバーナーは、サイド火口が揺動中も効率よく必要範囲を加熱するため、温度不足になることはないのです。つまり、温度不足になることはないのです。成形が完了するときの表面温度は1400~1420℃にもなります。内部温度は加熱中は右肩上がりであまり上下変動しません。
SD490ネジ鉄筋の実験の結果です。
圧接面の破断(フラット破面)は温度不足と言う人がおりますが、そんなことはありません。
温度は1200~1300℃位が理想です。温度が高いと鉄筋は脆くなりますので上げ過ぎないようにします。
もう一度、圧接面破断に戻ります。フラット破面は酸化膜が原因ですが、それでは『酸化膜はいつ入るのか?』です。
圧接作業をしている様子を正面からビデオで撮影し、それを拡大して見ると、熟練者であっても密着前に火炎が突き合わせ面から外れることが多々ありました。
突き合わせ面から火炎が僅かでも外れれば、一瞬で酸化されます。
鉄筋端面を加工するとき青い切り粉が出ます。それは正に熱により酸化された状態です。鉄と酸素は反応しやすいので、熱があれば堅く結びつきます。
密着まで突き合わせ面に還元炎を留めておくのはなかなか難しいようです。還元するにはそれなりの時間が必要で、還元される前に酸化した状態のまま加圧すれば、酸化膜が閉じ込められてしまう事になります。
つまり、圧接面破断は突き合わせ面から火炎が外れた為に生じた酸化被膜が原因だと考えられます。
正しい還元炎をつくることは非常に重要で圧接の善し悪しがこれで決まります。
強還元炎についての認識 - アセチレンフェザー長さ1.25r。
これは全圧連の実験結果からも大変良い強還元炎と言われています。密着まで気を抜かず、突き合わせ面から外れないように強還元炎で加熱してください。
つぎに圧接部の成形です。
・成型の第一段階では、密着後、加圧を一時停止、徐々に左右0.5d(リング・角カニの場合1d)までの揺動を開始します。
・成形の第二段階では、揺動はそのままで、設定下限圧に達した時点で加圧を再開し、必要な膨らみ約1.5Dを形成。長さは1.2D~1.3Dで完了です。
・アプセット方法が気になる人もおりますが、何段アプセットでもあまり違いは有りません。なぜなら、人によって火炎の強さも揺動方法もそれぞれ違うのに、温度の上がり方は、ほぼ同じなのです。密着さえ完全であれば自分に合うアプセット方法で良いと思います。
特に注意して欲しいことは
①端面を加工する時に出来るだけ焼き色が入らないように、つまり、酸化させない事です。
鉄筋端面の清浄をしっかりと行うことは勿論、圧接の瞬間まで端面に不純物を付着させないことも大事です。
②酸化皮膜を閉じこめない為に、密着の瞬間まで『還元炎』でシールドすることです。
密着完了後に酸化膜は入りません。入れたくても隙間が無くなっているので入らないのです。
逆に、酸化皮膜を閉じ込めてしまえば密着後にいくら温度を上げても取り除くことは出来ません。
このことはしっかりと覚えて下さい。